【主な登場人物】
茶屋の客 茶屋の男衆(おとこし) 棺桶屋(早桶屋)
【事の成り行き】
しっかりと自我が芽生える以前、幼稚園に上がるか上がらないかの頃には
遊びに夢中になると、遊び以外の物事を完全に忘れ去ってしまうという時期
があります。程度の差こそあれ、子どもには皆そういった時期があるはずで
す。絶対ある。
ある日も砂遊びに夢中になって山を造り、道を造り、トンネルを掘って木
でできた貨物列車を走らせていたと思ってください。催していたんでしょう、
先にも書きましたようにほかのことは何も注意が及びません、ビロウな話で
申し訳ありませんが、気が付いたときには既にあとの祭り状態でした。
人間、都合の悪い記憶は消し去ることができるようでその後の成り行きは
皆目覚えていません。応急処置を施したのち先生に付き添われて家路に付い
たのだけはハッキリしてます。今なら幼稚園にその時のためのサポートグッ
ズなど取り揃えられているはずですが、おしなべて貧しかった時代にそんな
余裕などなかったのです。
どんな気持ちで家までたどり着いたのか、母親に叱られたのやら叱られな
かったのやら、これも全く記憶にございません。思うに「付き馬」を付けら
れる気分というのはそんな気分のような……、ちょっと違うかなぁ。
(2003/10/19)
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
え〜、ありがとぉございます。代わり相まして桂南光でお付き合い願いま
すけれども。
この、お酒を呑みに行くところ、ピンからキリまでございましてね、まぁ
安いところでは屋台とか赤提灯、大衆酒場。あぁいぅとこで呑んでますとね、
お金の心配は要らないわけでございますが、北新地なんか行きましてね、高
級クラブといぅ、女の人がいるところへ行きますと高いんですよ、びっくり
するよぉな値段とりますからね。
大したもんは出ません。スルメとかね、オカキとかね、ピーナツ、いわゆ
る乾き物。それがちょっとお皿に出て、水割り一杯呑んだだけで三万円、五
万円でございます、無茶しますよね。
食べるもんは安いんでございますが、その横に女性が、ゆわゆる侍(はべ)
るわけでございますね。この女性がですね、侍って値打ちのある方がおれば
いいんでございますが、なんか学生アルバイトに毛の生えたよぉな、そんな
人ばっかりなんでございますね。
これが横へ座って「わたしも何かいただこぉかしら」なんて言ぅてね、で、
ウイスキーでも呑みゃえぇんですが「わたし呑めないからウーロン茶」この
ウーロン茶が三千円ぐらいするんでございますよ。
ね、喰いもせんのにフルーツいぅわね、ほんでどぉっちゅうこと言わない
んですよ、百円ライターで火ぃ着けるぐらいですよ。わたしなんか「タバコ
吸いません」言ぅたら「えぇッ、あなたタバコ吸わないの？ マ・ジ・メ」
やかましぃわい、頭張ったろかいな思いますよ。
ほんで我々芸人が行きますと「いやぁ〜、南光さん、噺家、わぁ〜ッ。な
んか面白いこと言(ゆ)ってちょ〜だいよ。小咄ゆってちょ〜だいよ」て、こ
んなこと言ぅんですよ。おらぁ、お客やないか、何を言ぅとんねん思いなが
ら小咄やるんです、わたし。
情けないやございませんかいな、ねぇ、まぁいろんなところがありますけ
れども、北新地、サラリーマンの憧れでございましてね、昔は「北の新地」
と言ぅておりました。といぅことはほかにもこぉ、新地がいろいろあったわ
けでございますなぁ。
新しく開発された土地を昔は「新地」そこへまぁ盛り場、色街を作りまし
て人を集めるわけでございまして、難波新地(なんばじんち)やとか堂島新地
(どぉじましんち)、曽根崎新地(そねざきしんち)。
大阪の街の中だけやなしにですね、郊外にもございました。川を渡りまし
て神崎新地(かんざきしんち)とかね、今里新地(いまざとしんち)、ちょっと
離れまして南のほぉではですね、住吉新地(すみよししんち)。
こちらのほぉは人気がございまして、ま、大阪で遊ぶとちょっと顔がさす
とか、遊び飽きた方が「遊びに行く」とは言わんと、向こぉには住吉大社、
神社がございますので「ちょっと住吉っさんへお参りに」てなことを言ぃな
がら、向こぉの新地へ遊びに行ったそぉでございまして、もぉすぐ近所に海
がありまして、なかなか爽やかなところで、人気があったんやそぉでござい
ますが。
■お早よぉさんでございます、お目覚めでございますかいな。お早よぉさん
でございます●お、おぁ〜……、あぁお前(ま)はんかいな、いやぁ〜夕べは
世話になったなぁ、オモロかったなぁ、あない呑んだん久し振りや。来てく
れた芸妓もみな気のえぇ子ばっかりでなぁ、もぉあんだけ唄とて笑ろて踊っ
たんは初めてや。堪能しました、おおきありがと。
■喜んでいただいたら幸いでございます。で、何でございます、夕べのほぉ
のお勘定がちょっとこのよぉになっとりますんで……●おっ、勘定はきっち
りせないかん。どぉいぅことになったぁる？■それが何でございます、銚子
の数がちょっと多ございましたので……
●おいおいおい、細かいことはえぇねがな。銚子が何本やとか何がかんぼや
とか、合計で総計でひっくるめて、こんだけやっちゅうてくれたらえぇねが
な■さいでございますか。それでございますと、みなで三分と二朱と、こぉ
なっとりますが。
●何やて？ お前いま何ちゅうたんや？ 三分二朱？ ちょっと待ちぃな、
夕べのあれで三分二朱？ そら何ぞの間違いとちがうか？■いえ。間違いや
ございません。いまも申しましたよぉに芸妓さんも随分お上がりになりまし
たんで、ちょっとお高ぉにはついておりますが……
●違うがなお前、高いちゅうてへん。安いっちゅうてんねがな、安過ぎるが
なお前……、あれだけ呑んで食て三分と二朱かいな。おまはんとこ、それ儲
けあるかえ？ ほんまに？ 芸妓の花代、祝儀そらまた別で？ え？ 何か
いな、それも込みで？ 何もかもひっくるめて三分二朱？ 安っすいなぁお
い、安いがな、安いでそれは。
●おら、この住吉新地ちょいちょい来てるけど、こない安い店生まれて初め
てや、ビックリするなぁ。これからまた友達連中もみな連れて来るさかい、
あんじょ〜頼むで■へっ、どぉぞよろしゅ〜にお頼の申します●しかし何や
なぁ、こない安かったら三分二朱、まるまる払ろたらこら面目ないがな。そぉ
や、おまはんに祝儀出してなんだなぁ、世話になってんねんがな、おまはん
の祝儀も入れて一両渡したら、それで堪忍してもらえるか？
■えっ、何でございますわたくしに祝儀をいただけますんで、こら、ありが
とぉさんでございます●いやいや、わずかの銭でそない喜ばれたら、こっち
が辛いやないかいな。ポ〜ンと一両出してやりたいけども、金はあれへんね
ん、ハハハハはぁ〜■えええぇ、それどぉいぅことでございます？●いやい
や、一両出したらおまはん喜ぶやろなぁ思たけど、懐はもぉすっからかんや、
一文も無いねん、笑うやろ？
■笑えまへんわ……。お客さん、あんた何を言ぅたはりまんねん。最前から
「安い安い」てえぇかげんなこと言ぅて、だいたいねぇ、安い安いちゅうて
金払ろたやつのためしがおまへんねん。あんた何でっか、一文も持たんとこ
んなとこ上がりなはったんか？ どないしまんねんこれ？ 三分と二朱、払
いはどないなんねん、おいッ！
●ほぉら、変わりよったなぁ、コロッと変わりよったなぁ……、おまはんオ
モロイなぁ。あのなぁ落ち着きや。向こ先見てもの言ぃや。おら遊んでんね
がなホンマにもぉ、冗談言ぅてんねがな……。考えてみ、ホンマに銭の無い
やつがこんな遅ぉまで寝てて堂々としてられるか？ 何を考えてんねん、向
こ先見てもの言えちゅうてんねん。
■えぇ？ いまのあれ、お遊びでございますか？ まことにご無礼をいたし
ました……。まだ若いもんで慣れんもんでございまして、相すまんこってご
ざいます。そぉですわなぁ、考えてみたら一文も持ってはれへん人がこんな
遅そまで寝てはって、ド〜ンと構えてはる、そんなことは世の中にはおまへ
んわなぁ●当たり前やがなお前。銭も無いのにおさまってる、そんなやつが
世の中におるかえ？ ところが、ここに一人おるねがなこれが……
■えっ、えぇ〜ッ？ どぉいぅこってんねんそれ？ どっちがホンマでんね
ん？●おまはんオモロイなぁ。コロコロころころ顔色が変わるやないかいな
嬉しぃやっちゃで。いや、おら冗談が好っきゃねん。もぉ朝から晩まで、酒
呑んでもシラフでも冗談言ぅてんとたまらん男やねん。のべつ幕なし冗談言ぅ
てんねん、オモロイやろ。けどな、あいだ冗談言ぅてるけど、ここっちゅう
時はな……、冗談言ぅねん。
■……？ わたしはどないしたらよろしんでございますやろ？ ひとつあん
じょ〜返答のほぉお頼の申します●すまんすまん、もぉ冗談はここまでにし
とこ。ちゃんと話するけどな男衆(おとこし)さん怒らんといてや、落ち着い
て聞ぃて、正直に言ぅ。わしゃホンマに懐は一文無しや。
●ちゅうのは、夕べこの新地へ来たけどもやで、こらお前遊びに来たんやな
いねがな、冷やかしに来たんや。ところがおまはんがわしを捕まえて「えぇ
女ごがいてまっせ」うまいこと言ぅさかい、うかうかっと上がってしもたん
やがな。
●けど心配することない、勘定のほぉはこの近所にオバハンがおんねん、こ
こ行たらオバハンがちゃ〜んと払ろてくれる。いやいや、いままでいっぺん
や二へんやない、何べんもあんねん。このオバハンがな、女ごやけど男気の
ある人で「若いときの道楽は甲斐性や、任さんかい」ちゅうて、泣き付いて
行ったら何ぼでも銭出してくれんねん。せやさかい勘定のほぉは心配せぇで
もえぇさかいに。
■あっさよでございますか、そらもぉ冗談やないんでございますな？ さよ
か。で、どぉなりますんで？●「どぉなります」て、これからわしがオバハ
ンとこ行て、もろて来てもえぇねんけども、おまはんとこ心配やろ？ わし
も呑み逃げやと思われたらけったくそ悪いがな。せやさかいに誰ぞ手のあい
た若いもん、わしにちょっと付いて来て、いわゆる付き馬や、付いて来てく
れるか？ そぉか、おまはんが。そらえらいすまん、ほな一緒に行こか。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
●えらい厄介かけてすまんなぁホンマにもぉ……、あッどぉも皆さん夕べは
お世話になりました、おっきありがと。えらいご馳走になりましたオモロかっ
た。ちょっとこの男が「その辺まで一緒に歩きまひょ」ちゅうんで道行き行っ
てきまっさ。
●ほぉ、表へ出たら気持ちがえぇやないかいな。清々しぃっちゅうのはこぉ
いぅこと言ぅねんなぁ。しかし何やなぁ、この色街ちゅうのはえぇなぁ。お
んなし場所で朝と晩とではこない景色が違うか。夕べ来た時は軒の行灯にみ
な明かりが灯って、打ち水に盛塩がしたぁったがな。女ごの声がした、おし
ろいの匂いがした、びんつけの油の匂い香り、あれが何とも言えなんだでお
前。
●三味線・太鼓でうェ〜いッ、あれ聴ぃたらこの世の極楽や「きょうは遊ぶ
でぇ」ちゅう気になったがな。それが一夜明けてみぃな、みなチャッチャと
歩いてるがな、真面目な顔してる。あないして豆腐屋が出とる漬けもん屋が
来る。こっちからシジミ売りが来る、八百屋が荷ぃ降ろしてる。夕べ遊んだ
分きょうは一生懸命働こか、そぉいぅ気になるがな嬉しぃなぁ。
●ことに大阪と違うのはな、この住吉新地はもぉすぐそこが海やろ、浜風こ
れがファ〜ッと吹いて来よる。こらちょっと大阪とは違うで、いっぺん息吸ぅ
てみ……、潮の香りこれがが何とも言えんなぁ。お前も吸わんかいな……、
え？ 吸ぅても潮の香りがしまへん？ 何でやねん？ 鼻が詰ってます。ぶ
さいくなやっちゃなぁ、鼻かみぃなホンマに。
●わしが「気持ちがえぇ、清々しぃ」ちゅうてんねや、おまはんも「そぉで
んなぁ」言えんのかいな、合わせられんのかいな。何や眉間に皺寄せて暗ぁ
い顔して、何ぞ心配事あるんかいなお前？■心配事ございませんけども……、
おばさんの家(うち)はどちらでございます？
●オバハンとこ、そこやっちゅうてるがな、付いて来たらえぇねんどんなら
んで……。おッ、高灯篭や。夕べ見たときは明かりが灯ってたがな、立派な
もんこしらえたぁるで……
●しかしまぁ、おまはんにこぉして厄介かけて付き馬で付いて来てもらうけ
ども、お前こぉいぅ付き馬ちゅうのはチョイチョイ行くんかいな？ あぁ、
そぉいぅお客さんあるけれども、わたしは行くのは初めて？ なるほど、こ
らなかなか難しぃでお前、ボ〜ッとしてたらあかんで付き馬て。いつ客が逃
げるや分かれへん……
■ちょっと待っとくなはれ、あんた逃げるつもりでっかいな？●違うがな、
そぉいぅお客もおるさかい気ぃ付けや、ちゅう話をしてんねやがな。しかし
考えてみ、人間やのに「付き馬」これおかしぃと思わんかい？ こらどぉいぅ
わけで付き馬っちゅうか、お前知ってるか？ 知らん？ 教(おせ)たろか？
要らん？ 愛想のないやっちゃなぁお前「要りまへん」て、おせたるがな、
話のタネになるがな。
●俺もまた聞きやけども、昔こぉいぅ色街へ遊びに来る人はみな馬に乗って
来たんやなぁ、で、あの入り口の門の所で降りて遊びに行く。馬方は遊んで
帰る人をまた馬に乗してこぉ連れて帰る。ところがやなぁ、中にはわしみた
いに銭のないやつ、勘定の足らんやつ、こぉいぅやつをやな、店の人が馬方
に頼んで馬に乗して付いて行てもぉてやな、で、勘定をもろて馬方が店へ持っ
て来る。何がしかのお礼をもらう。せやさかいに馬が付いて行くさかい付き
馬やったんや。
●ところが中には悪い馬方がおるわい、まとまった金になったらそのままト
ンズラするっちゅうやつが出てくるんで、これは具合が悪いっちゅうので店
の人間が付いて行くよぉになった。それでいまでも付き馬とこぉなったちゅ
うこっちゃなぁ。なかなかこれオモロイ話やろ？■へぇ……
●精ぇのない返事しないなお前。どこぞ漏れてんのかいな？ そぉいぅ時は
「あぁなるほど、えぇ話聞かしてもらいました。またどこぞで愛想に使わし
てもらいまっさ」てなこと言えんのかいな。ホンマに陰気な顔やなぁお前、
何ぞ悩み事あんのか？■悩み事はおまへんねけど……、おばさんのお家はど
ちらでございます？
●そればっかりやなぁ、分かったぁる。もぉそこ、そこやがな。その角曲がっ
た……、しもたぁ、うっかりしたなぁ■また始まりましたなぁ、何がしまい
はったんですか？●いや違うがな、オバハンとこ、そこ曲がった角、小料理
屋してんねや。晩が遅いがな、いっつもオバハン朝でも昼前やないと起きて
けぇへんねや。いま時分行たら恐らく夜中の夢やろなぁ。
■そぉでございますか。ほなまぁ起こしてもらわんとしょ〜がございません
なぁ●そこらがお前、気が利かんちゅうねん。言ぅてるやろ、いっつも昼前
まで寝てんねや、いま時分起こしてみぃ向こぉ気ぃ悪いがな、目覚めが悪い
がな。そこへ「勘定立て替えてくれ」て、誰が出す、小言くらうだけやがな。
おらかめへんで、困んのはお前と違うかえ？
■わたし困るんでございます。ほたらどぉしたらよろしぃんでございます？
●「どぉしたら」て、昼前まで待たなしゃ〜ないやないか。せやさかい暇つ
ぶさなしゃ〜ないなぁ、ちょっとわしと付き合ぉてくれ■へぇ、よろしござ
いますけど、どちらのほぉへ？●「どちらのほぉへ」てお前、別にあてがあ
るわけや……、おっ、ちょ〜どえぇがな前に住吉っさん、住吉大社の鳥居が
あるがな。
●大きな石の鳥居や。この住吉っさんお参りしてウロウロ・ウロウロしてた
らちょ〜ど昼時分になるで、一緒に行こ。お前ら毎日参ってるか？ 何、初
詣の時だけ？ 意外とそぉいぅもんやなぁ、けど近所や参らんかいな霊験あ
らたかやで、行こ行こ……。ほぉら早よから参ってる人がおるがな。やっぱ
り神信心ちゅうのは気持ちがえぇで……
●ちょっと待て、しかし何やなぁどこの神社行たかて足元玉砂利ちゅうのん
敷ぃとるやろ。これ下駄で歩いたら歩きにくいなぁ■ホンにコツコツして歩
きにくございますなぁ●ホンマやなぁ、これ走って逃げられへんなぁ■ちょ、
待ちなはれ。逃げるつもりでっかいな●冗談やがな……、最前からわし冗談
が好きやっちゅうてるやろ、ビクビクビクビクすんねやあれへんがな。ホン
マにもぉ落ち着きぃな、ケッタイなやっちゃで。
●おっ、向こぉに太鼓橋がある。あれ見たらオモロイけど、上がったことあ
るか？ あれ、上がる時はえぇけど、降りる時足突っ張って歩かないかんね
ん、歩きにくいで……。気ぃ付けて上がりや、気ぃ付けてな。こぉやって上
がる時はえぇねんけどな、上がってこっから下りる時、足もと見て、足もと
お留守になったら滑るよって……、ヨッヨッ、こぉ突っ張って、こぉせんこ
とにはいかん。
●思い出した思い出した、わしが初めて住吉っさん来たんなぁ、あれまだ五
つ六つの頃やったかいなぁ。お父っつぁんとお母はんと一緒に来てんけどな、
覚えてる覚えてる……、初めて塗りのえぇ下駄買ぉてもぉたんや、それ履い
てこの太鼓橋上がって下りる時、足もとがお留守や……、ズルズルステ〜ン、
顔から落ちてデボチン打って血がタラタラァ〜や。
●お母(か)んが「何をしてんねん、ボォ〜ッとするさかいや」大きな声で怒
るわ、お父っつぁんは「こいつ、オモロイやっちゃ」言ぅて笑うわ、わい一
人でウェ〜ン泣くわ、家族で三人上戸ができてんねがな……。オモロイなぁ
■ちょっともオモロイことおまへんけど●オモロイやろがな、わしの思い出
話。オモロなかっても合わしぃな客やろがなわしゃ。
●分かった、お前が何で不機嫌か分かりましたで。あんた何やな、わしばっ
かりしゃべってる、おまはんも何ぞしゃべりたいねん、せやろ？ 分かった、
話聞かしてもらお。ゆっくりできるさかい話聞こ、ちょっと思い出話言ぅて
みぃな■へぇ、わて思い出話てなおまへんねん●「おまへん」て、何なとあ
るやろ？ そんだけ生きてんねんから。
■いぃえぇわたいは思い出話てな、皆目おまへんねん。何もすることおまへ
んねん●えぇ？ お前何かいな、いままで生きてきて一つも思い出話がない
のん？ お前、老後どないすんねや、歳いたら思い出話で生きていくねで。
あのなぁ、思い出っちゅうのは自分でこしらえるもんやがな、ちょっとした
ことでも「こら思い出なるなぁ」思たら思い出になんねん。
●せやがな、きょうでもせやろ。考えてみ、わしに付き馬で付いて来て、オ
バハンとこ行くそれまでに、あっちウロウロこっちウロウロして住吉っさん
に来てやで、太鼓橋渡ったとこでボ〜ッとしてたら逃げられた。て、えぇ思
い出になるがな。
■ちょっと待ちなはれ、逃げたらあきまへんで●分かってるがな。冗談言ぅ
てんねがなホンマにもぉ。こんな気のあかんやつ知らんで……、おっ、本殿
や、お参りしょ〜お参りしょ〜。知ってるか、ここは四社(ししゃ)の社ちゅ
うてな、神さんが四(よ)ったりいたはるねん、四人祀ったぁんねんなぁ。こ
れちょっとお参りしょ〜か、出して出して……
■何です？●「何です」て、おら一文無しのカラッケツや「賽銭を出してん
か、立て替えて」ちゅうてんねんがな■賽銭ぐらい自分で出しなはれ●「出
しなはれ」て、あれへんねがな■そんなこと言われたかて……●ケチケチしぃ
な神さんの前で。
●お前ジィ〜ッと考えてみ、向こぉで神さんこっち見たはるわ、どない思た
はる？ 神さんの気ぃになったことないやろ、いっぺんなってみぃな。おせ
たろか、いま神さんこっち見たはるわ「おッ二人男がおる。こっちのやつ」
わしのこっちゃ「こいつはなかなか感心なやっちゃ。銭も無いのに人に借金
してでも神信心しょ〜か。なかなか感心なやっちゃ、こぉいぅやつには近々
福を授けてやらないかんな」と思たはるわ。
●「ところがその横のやつ」お前のこっちゃ「賽銭貸してくれちゅうのに貸
さんなぁ、やらしぃやっちゃなぁ、どこのやっちゃ？ あぁ向こぉの新地の
あいつか、よぉ〜し近々罰(ばち)を当ててやろぉ」と、こぉなんねん。
■気の悪いこと言ぃなはんな、分かりました貸しまんがなホンマにもぉ。返
しとくなはれや●分かってるがな、オバハンとこへ行ったら倍にして返すが
な。おまはんもちゃんと賽銭上げて拝みや（パンパン……）んッ！ んッ！
●拝んだった、自分のこと無病息災、商売繁盛。それだけと違うで、おまは
んに賽銭借ったやろ、おまはんのことも頼んどいたったがな「神さんどぉぞ
この男に災いが降りかかりませんよぉに」ちゅうて、言ぅといたった。なぁ、
災いが降りかからなんだらえぇなぁ……
■どぉいぅこってんねん、それはあんた？ 何や災いが降りかかるよぉでん
がな●気ぃのもんや気ぃのもんや、次行こ次行こ……、賽銭貸して、えぇ？
「最前のでよろしぃやろ」て、えぇことあれへんがな、あと神さん三人いた
はんねや、神さんの気になってみっちゅうねや。
●今晩四人(よったり)寄って一杯呑むか分かれへんやろが、そのときに「お
前とこは参ったけど、うち来よらんへなんだがな。あの大阪のやつは知らん
けど、も一人の男そこの新地のやっちゃ、いっぺん三人で罰当てたろ」と、
こぉなんねがな■かなんなぁもぉ、ほなこれ使ことくなはれな。
●ちゃっと出したらえぇねがな（パンパン……）よし、これでみな神さん四
人回った。なぁ、清々しぃなぁ神信心ちゅうんわ。何でそんな顔すんねやお
前？ しかし何やなぁ、こんだけ歩いて来たら腹も減ってきたなぁ、おっ、
ちょ〜どえぇがな、横手出たとこに一膳飯屋があるがな、堤燈に「めし」と
書いたぁる見てみぃ「名物のハマグリの酒蒸」これがうまいねん、前いっぺ
ん来て食たことあるねん行こ行こ……
●邪魔するで、前に来たことあるねんけど覚えてくれてる？ 嬉しぃやない
かいな。わし名物のハマグリと味噌汁と冷奴、ネギぎょ〜さん入れといて。
で、漬けもんと、ご飯は小さいやつでえぇさかい。おまはんは何する？ え？
わたしは結構です？ そんなことあれへんやろがな、腹減ってるやろがな、
朝から飯食てへんねやろ、食たらえぇねがな、遠慮することあれへんがなわ
しが奢ったるがな。
■そぉですか、それやったらいただきます●嫌らしぃやっちゃなぁお前はホ
ンマに、何すんねん？ おんなしもんでえぇ、あそぉ。おい、いまのん二人
前。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
●うまかったなぁ、ハマグリの蒸したやつうまかったやろ。近いねん、また
ちょいちょい来たってぇな。いやぁ、腹にものが入ったら、何や気持ちが落
ち着くなぁホッとするなぁ、ホッコリするっちゅうやっちゃ気持ちがえぇ。
おおきにごっつぉはん何ぼ……？ や、安っすいやないかいな、立て替えて
立て替えて。
■やっぱりそぉでっかないな、ここはあんたが奢るっちゅうさかいわたい食
べましたんやがな●奢るわいな、あとでオバハンとこで銭もろて奢るけれど
も、いま持ってへんさかい出さないかんがなお前■あのねぇ、わたいもぉ銭
おまへんねや●何を言ぅてんねんお前、持ってるがな。
■持ってしまへんわたい●最前、賽銭出したときわし覗いたがな。まだあっ
たがな、嫌らしぃなぁ■どっちがやらしぃねんホンマにもぉ、たいがいにし
なはれや。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
●いや、ごっつぉはん。うまかったなぁ、おっ、向かいが風呂屋やがな、朝
風呂は気持ちがえぇで、ちょっと汗流して行こか、どないや？ え？「どぉ
せわたしが出さんならん」そぉそぉ、それやったらやめさしてもらいます？
そぉか、なるほどなぁしかしまだ昼までだいぶあるしなぁ、どないや浜のほぉ
行て船に乗ってどこぞ行こか？
■あんた、たいがいにしなはれや。わたいね、堪忍袋の緒が切れましたわ、
あっちウロウロこっちウロウロみなわたしが金立て替えて……、あのねぇ、
聞かしてもらいまっけども、そのオバハンちゅう人ホンマにいてまんのか？
どないでんねん？
●大きな声で怒りないな、いてるがな。最前のあの角のとこ曲がったとこや
がな■分かりました、ほなまだ寝たはるか知りまへんけど、わたいが行て話
をして勘定出してもらいますわ。それでよろしぃやろ？●ちょっと待ってぇ
な、そんなことしたらお前はえぇけども、わしゃあとあと泣き付いて行かれ
へんやないかかいな。せや、オバハンとこやめてオッサンとこにしょ〜。
■しまいに怒りまっせ、オバハンがあかなんだらオッサン。そんなオッサン
がどこにいてまんねん？●オッサン、そこにいてんねんそこそこ、この道入っ
て行った突き当たり、あの右手。あれがオッサンとこや■ホンマにこんなと
こにオッサンがいてまんのか？●いてるがな見てみぃな、あっこにこぉ大き
な桶が二つあるやろ「早桶」と看板が上がったぁる、棺桶屋や。あの前に鉢
巻してタバコ吸ぅてる、あれがわしのオッサンやがな。
■えぇ？ 棺桶屋？ あの人がお宅のオッサンでっか？ 皆目、顔似てしま
へんで……。けどまぁあの人をオッサンとしまひょ、それやったらあんた初
めからオバハンとこ行かんとオッサンとこ行たらえぇのんと違いまんのん？
こらどぉいぅこってんねん？●違うがなお前、色街で働いてる人間、朝早よぉ
から棺桶屋へ連れて来られへんがな、ゲンが悪いとこぉなるがな。
■それやったら心配おまへん。我々こぉいぅ商いしてますとな、お葬式やと
かお坊さんに出会いますとゲン担ぎまんねん「捗(はか)行きがする」と言ぅ
て、物事がうまいこと行く、はかが行くちゅうて、かえって喜びまんねんで
●あっそぉかいな、ほな棺桶屋でえぇねんがな。分かった、ほなこれから行
てオッサンに金こしらえてもらうけど、おまはんここで待ってて。
●違うがな逃げへんがな、一緒に行ったら付き馬やっちゅうことが分かって
しまうやろ、いやオッサンはかめへんけど若い職人がおるがな、あの手前オッ
サンがわしを説教せんならん、そんだけ待たんならんやろ。せやからわしが
一人で行てオッサンと話してこしらえてもらうとなったら、おまはん呼ぶさ
かい、ちょっと待ってくれよ。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
●オッサァ〜〜ン、お早よぉさんでございますぅ〜▲大ぉきな声の人が来た
なぁこの人。はいはい、お早よぉさんでございます●えらいご無理言ぃます
けど、こしらえてもらえまっしゃろかぁ〜？▲何でんねんあんたホンマに、
わたい歳はいてますけどな耳はしっかりしてまんねや。もっと普通にしゃべっ
とくなはれ、どないしましてん？
●えらいすんまへん。あのね、実は向こぉに男が一人ボォ〜ッと立ってまっ
しゃろ。あの男の兄貴が夕べ死にましたんや。でね、これが元々大きぃ男で
してんけども、そこへさして腫れの病っちゅうやつで腫れて腫れて死にまし
てな、そこらにある出来合いの棺桶では入らしまへんねん。あちこち聞ぃて
回ったら、こちらさんが大きぃ棺桶をこしらえてくれはるっちゅうこと聞き
ましたんで、寄してもろたんですけど、何とか……
●こしらえてもらえまへんやろかぁ〜？▲ちょっと堪忍しとくなはれ、あん
た声の調子取れまへんのか？ はぁ、はぁ……、分かりました。それやった
らこしらえさしてもらいます。ちょっと待っとくなはれや……
▲おい辰、前にいっぺんこしらえたことあるやろ、二年ほど前に相撲(すもん)
取りが死んだときに。あの大きぃやつちょっとこしらえたってくれ「頭抜け
大一番小判型」ちゅうやつ、あれ一丁こしらえたってくれ。いけるか？
▲ちょっと待ってもろたらこしらえまっさかい、ちょっと待っててもらいま
すよぉに●えッ、こしらえてもらえますかぁ〜。いやぁ〜……、何ちゅう名
前でした？ 頭抜け大一番小判型……、小判、こしらえてもらえますかぁ〜
▲あんたホンマに大きな声やなぁ、分かりましたさかい静かにしとくなはれ。
●えらいすんまへんご無理言ぃまして。でね、あの男呼びまっさかい「こし
らえる」と、こぉ言ぅたっとくなはれ。兄貴が死んでちょっと気が動転して
ますんで、妙なこと言ぅや分かりまへんけども、そこあんまり相手にせんよぉ
にお頼の申します。
●おい、こしらえてくれはる、こしらえてくれはる入っといで■これはどぉ
も、ご無理申しまして▲いえいえ、いまこしらえてまっさかい、ちょっと待っ
とくなはれ■さいでございますか、ひとつよろしゅ〜にお頼の申します●な、
そぉいぅわけでこしらえてくれはるさかい、でけたらおまはんそれ持って帰っ
てくれたらえぇさかい。俺ちょっと煙草買ぉてくるさかいな……
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
●かわいそぉな男やなぁあいつわ。しかし、あんな人のえぇやつちょっとな
いなぁ、あんなやつ騙したら後生に障るなぁ。そぉや、きょうはまた友達連
れて遊びに行たろか「えらい洒落がきつかった、すまなんだ。はッはぁ〜、
笑うやろ？」あいつ「笑えまへんわ」言ぃよるやろなぁホンマにもぉ。
「けどこのあとどぉなるかいなぁ……」シュ〜ッと行てしまいます。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
▲あんた、そんなとこ立ってんとまぁ掛けなはれ。けどまぁ、この度はえら
いこってしたなぁ■へぇ、まぁえらいこってしたけど、あるこってさかい、
こぉいぅことは▲ほぉ〜あるこってすなぁ、なかなか若いのにしっかりした
はるがな……。長いことでしたんか？■いぃえぇ、夕べひと晩で▲ほぉ夕べ
ひと晩？ 急に来たちゅうやつでんな■へぇ、急にお越しになりましたもん
で▲「お越しになりました」？ ちょっと動転してんのんかいなぁ。
▲で、お通夜(つや)はどぉいぅ具合でした？■はぁ？ お通夜？ あぁ商売
柄お通夜ね、そぉいぅ符丁で……、もぉお通夜は賑やかでございましてね、
もぉ芸妓衆が三人もまいりまして、三味線弾ぃたり唄とたり踊ったりでえら
い賑わいでした▲ほぉ、よろしぃなぁ、いやお通夜いぅのはしんみりするよ
り、そぉやって陽気にしたほぉが。
▲仏さんも喜びましたやろ？■えぇえぇ、仏さんも喜ぶも喜ばんも、しまい
に裸になってカッポレ踊ったりなんかしましてね▲カッポレ？ よほど動転
したはんねんなぁ……。え？ もぉ出来るか？ で、あんたこれ出来たらど
ないして持って帰りなはる？■へぇ、財布入れて持って帰りますけど▲「財
布入れて」……？ 出来たか、こっち持って来て。
▲お待たせしました、これでんねや。見たっとくなはれ■はっ、そぉでござ
いますか……。こら大きな棺桶でございますな、ほぉ〜、こんな大きなもん
はこらお相撲さんか何ぞが入りはりますのんかなぁ？ どなたが？▲何を言ぅ
てんねや「どなたが？」て、あんたが注文した棺桶こしらえたんやがな。こ
れでどないでんねん？
■えぇ、いや、わたしはそんなもん注文してしませんが……▲「してしませ
んが」て、あんたの最前の連れが、あんたの兄貴が腫れの病で死んで大きぃ
やつこしらえてくれちゅうて「頭抜け大一番小判型」これあんたの注文で誂
えましたんやがな■え、え〜ッ！ いや、わたしは叔父さんとこへ勘定をも
らういぅことで寄してもろてますんやが……
▲えぇ？ あんたの言ぅてることよぉ分からんなぁ。どぉいぅこってんねん？
へぇ、ほぉ、はぁ……、あんた新地の……、ほぉ、へぇ、はぁ……、あんた
アホやなぁ。付き馬に付いて来て騙されてんねがなそれ。
■え〜っ、わたし騙されてまんのん？ いや、あの最前の男の人はお宅の甥
御さんでしょ？▲あんなやつ、わしゃ知らんで■そんなアホな、最前「オッ
サン」ちゅうたら返事してはりましたがな▲わしゃ「オッサン」やがな「オ
バハン」ちゅわれたら返事せぇへんけど「オッサン」ちゅわれたら返事する
で。
■そんなアホな、あんたこれえらいこっちゃがな、親方に叱られますわ。と
にかく帰りますんで……▲待った、待った。こんなもん放っといて帰っても
ろたらどんならんがな。これ持って帰らんかい、おいッ！■いや、こんなん
要らしまへん▲「要らしまへん」やあれへんがな、こんなもんほかへ回され
へんがな。おいッ、こいつの背中へこれ縛り付け。
■ちょ、ちょっと、堪忍しとくなはれ。こんなん持って帰ったら、わて怒ら
れまんがな、堪忍しとくなはれ▲お前がボ〜ッとしてるから、こんなことに
なんのじゃホンマにもぉ。だいたい騙されたんはご互いやしゃ〜ない、うち
も手間賃あきらめるけど木の代金もろとこ。二分置いていけ二分。
■二分？ こっちはそんな金持ってしまへんわ▲何ぃ、銭が無い……
【さげ】
▲おい辰、そこの新地まで付き馬に行てこい。
【プロパティ】
住吉新地＝大阪市住之江区浜口東１(住吉公園)。1922(大正11)年、住吉区
住吉公園周辺を芸妓居住地としたとの記録が残るが、それ以前より酌
婦が芸妓のような接待をしていたらしい。1936(昭和11)年、菖蒲園、
南加賀屋に移転。別名御崎(みさき)新地。
あんじょう＝うまい具合に。味よく→アジヨォ→アンジョ〜。
祝儀も入れて一両＝一両は四分、一分は四朱。払いが三分二朱なので、祝
儀は二朱ということになります。つまりサービス料12.5％、妥当なと
ころでしょうか。
向こ先＝前方・成り行き。
けったくそ悪い＝卦体糞悪い：不愉快な。いまいましい。癪にさわる。卦
体は気持ち、気色などの意。糞は増幅、悪態。
盛塩(もりしお)＝旅館、料理屋、飲み屋など客商売の店で、入り口の両側
に塩を盛って大入りの縁起をかつぐ。由来：古代中国の始皇帝は三千
人もの妾を囲っていた。ある妾が自分の邸の前で立ち止まらせる方法
はないかと考え、牛車の牛が大好きな塩を見つけて立ち止まるよう、
門の前に塩を盛ったのが始まり、という。
すぐそこが海＝1850年ごろまで、現在の「新なにわ筋」が海岸線であった。
それ以前は住吉大社のすぐ西が海岸線で、1703年大和川の付け替え完
成ののち、流入する土砂の堆積によって次第に浅瀬となり、積極的な
干拓事業がはじまった。現在、住吉公園から南港まで約８キロ。
高灯篭＝鎌倉時代末期に住吉大社への献灯として建てられた日本最古の灯
台。住吉公園内にある現在の灯台は1974(昭和49)年に復元されたもの。
とんずら＝「とん」は遁走「ずら」はずらかるの意から、逃げることをい
う俗語。
しないな＝しな＋いな。イナは強調のための接尾語。
住吉っさん＝住吉神社：大阪市住吉区にある神社。底筒男命（そこつつの
おのみこと）、中筒男命、表筒男命、神功皇后をまつる(四社(ししゃ)
の社)。現在では住吉大社と改称している。
ケッタイ＝妙な・変な・へんてこな・おかしな・奇態な・嫌な・不思議な
など、実にいろいろな意味を含んだケッタイな言葉。エゲツナイと並
んで上方言葉の両横綱。怪体とも奇態とも希代とも卦体とも当てる。
やらしい＝イヤラシイのイが脱落したもの。さらにチャラシイと訛って発
音することもある。嫌らしい＝「嫌だ」とはっきり言わずに「嫌らし
い」とぼかして言う。イヤラシヤノなどとさらに柔らかくもなる。
かなん＝適わない→適わん→かなん。
ホッコリ＝ホッと疲れたさまにいう。
験(げん)＝ゲンがえぇ、ゲンが悪いなど、兆しの意味に用いられる。現在
は験の字を当てるが、縁起(えんぎ)の倒語ギエンをゲンと約めたもの。
カッポレ＝住吉踊りを源流とする大道芸能、のちに歌舞伎で取り上げられ
お座敷芸として大流行した。カッポレとは岡惚れ、親しく接したこと
のない人や他人の恋人をわきからひそかに恋い慕うこと、からともい
われる。
どんならん＝仕方がない。どうにもならない。しょうがない。どうしよう
もない。どうにもならぬ。ドウモナラヌ→ドモナラン→ドムナラン→
ドンナラン。
音源：桂南光 1996/09/21 平成紅梅亭(YTV)
【作成メモ】
●参 照 演 者：main＝桂南光 sub＝＊
●main高座記録日：1996/09/21 ●番 組 名：平成紅梅亭(YTV)
●ファイル公開日：1997/08/17 ●江戸落語相当：＊
●更 新 日：2017/04/23 ●リクエスト数：
●注 意 事 項：内容を削除、追加、改訂している部分があります。
記録日のmain演者によるさげを採用しました。
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