【主な登場人物】
大橋さん 旦さん おこもさん 奥さん
【事の成り行き】
たっぷりの白菜に豚肉あるいは鳥肉を合わせ、中華ダシで炊き込む中華風
鍋。献立のアイデアに困ったときにすぐに思い浮かぶひと品です。冬といわ
ず秋といわず春といわず、真夏のクソ暑いときにも唐辛子、コショウと香辛
料をふんだんに入れゴマ油を利かせると、フ〜フ〜・ヒ〜ヒ〜、これがまた
不思議とすすみます。
関西、特に大阪は七月二十五日の天神祭りからお盆までが一番暑さがこた
えるのですが、夏の暑い最中にダラダラ汗を流しながら鍋をつつくと、元気
の素がどんどん溜まっていくように感じます。鍋といえば冬の食べ物と固定
してしまうと美味しい世界を狭めることになります、見た目は暑苦しいこと
この上ありませんが一旦胃の中へ放り込んでしまえば、食欲不振なんか吹き
飛んでしまいます。
と、ここまでは改訂前の書き込みで、いま季節はそろそろ鍋が恋しくなっ
てくるいい頃合いになってきました。そこでもう一品わたしのお薦め鍋料理
のご紹介です。
関西には水菜を主役に貴重な存在になって久しい鯨を使う「はりはり鍋」
という名物鍋料理があります。いまや鯨肉は庶民には高嶺の花で町内のお店
で手に入れることはまず不可能。と言って、むかし食べたあの味は忘れられ
ない。そこで鯨肉の代わりに牛バラ肉を使って「牛はり鍋」はいかがでしょ
う。
ダシは昆布をベースに薄口醤油、味醂、酒を加えた、ちょうどうどんダシ
を少しだけ濃くしたものを使用します。間違ってもスキヤキのような濃いダ
シにしてはいけません。
たぎったダシに霜降りの牛バラ肉を入れ、脂がダシの表面に浮いてきた頃
を見計らって水菜を加え、サッと火をとおしてシャキシャキッとした食感を
いただきます。あくまでも水菜が主役なのです。
バラ肉から出た脂の旨味を水菜が吸って、口のなか一杯に幸せが広がるで
しょう。水菜もいまでは年中出回っているようですが、気温が下がって霜の
降りる頃になれば、より柔らかくより上品に甘くなってきます。今年の冬是
非お試しください。
また、体にも家計にもヘルシーにというポリシーを持つ方には、牛バラの
代わりに薄揚げを使うというフェイントもありでしょう。豪華さは消えます
が水菜を美味しくいただけるところは引継いでいます。こちらは京都で「は
りはり」という名のお晩采として健在です。
とはいえ、やっぱり冬の鍋の王様は「フグ」でしょうかね(2003/10/05)。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
えぇ〜、ただ今はまた粋なところぉでございました。皆さん方も感心して
何度も拍手をしておられましたですが、その分わたくしのとこで一服しない
よぉにしてください。
え〜、わたくしのところぉはもぉ春団治師匠がね、ご準備が出来上がりま
すあいだ、ほんの八時間半ほどお付き合いのほどお願い申しあげておきます
が。
まぁあの、秋もだいぶ深まってまいりましてですね、食べるもんが美味しぃ
時期でございまして、何といぅても代表はマッタケでございましょ〜ね。秋
になるとこの、食卓へマッタケがこぉ出て来るといぅ噂は聞ぃとるんでござ
いますけれど、実際には見たことないんでございますけれどもね。
なんであんなに高いかと言ぃますと、やっぱり数が少ないからでしょ〜ね。
そんなにたくさんはできないからでございましょ。カズノコにしたってそぉ
でございますね、お正月に。
昔はニシンが大量に獲れましたんでね、カズノコなんか別に高いこともな
んともなかったんでございますが、そぉ獲れなくなってからパッとこぉ値段
が上がったわけでございます。ねぇ、そんなに美味しぃもんやとは思いませ
んけどねぇ、けどなんか悔しぃですがね。
クジラがそぉでございます鯨。今クジラとゆや高級品でございますからね。
昔なんかあんなもん、貧乏人の食べるもんだったんですよ。貧乏人ちゅうこ
とはないですが、まぁ庶民の食べるもんやったんでございますけれど、今は
なんか「クジラ食べた」「え？ なんか悪いことしたんかい？」てなもんで
すかね。それぐらい高級品。
まぁあの獲ったらいかんちゅうことでこぉセーブされましたからね、急に
高くなったんでございますけども。クジラを食べるっていぅんで外国からえ
らい非難されたりね、そんなアホなことはないと思うんですけど、習慣です
からね、昔から食べてたんでございます。ほな牛はどないなんねん、とこぉ
言ぃたくもなりますがね。
イルカだってそぉでしょ、昔の文献なんか見てるとイルカなんか食べてた
んでございますからね、これたまにイルカ食べたっちゅうんで、前イギリス
からえらい非難くいましたですがね「イルカを食べるなんて……」「何であ
かんねん？」ちゅうたら「あんな知的な、賢い動物を食べるなんて」ほな、
アホは食べてもえぇんか？ ねぇ。まぁそぉいぅ理屈になりますがね。
あのテッチリちゅうのは何であんな高いんでしょ〜かねぇ？ ぼやいてばっ
かりですけど、高いですねぇ。テッチリ、あれも高級品でございます、我々
そないちょいちょい食べるいぅわけにいきませんですが。
また安いところもあることはあるんでございますよね、あれ不思議でござ
います。おんなじフグなんでしょ〜が、こっち側の店でこない高いもんが、
この店で何でこんな安いねん？ 不思議に思うんでございます。道頓堀とか
新世界なんか行きますとですね、そぉいぅお店がございます。
しかしまぁあの、フグといぅのはあの毒があるというぅんでまた魅力なん
でございましょ〜ね。まぁ普通のお店で食べてる分には安心でございますか
らね、けどまぁ肝なんか食べるとちょっとヤバイといぅ気ぃがありますんで、
またこの美味しさが増すんやと思いますがね。
あのテッチリのテツといぅのは「鉄砲」のテツやそぉでございます。こら
ね、何でフグが鉄砲か？ だいたい感じでお分かりやと思いますが、厳密に
言ぃますと「鉄砲」ですから「弾に当たる」と言ぅね「たまに当たる」といぅ
洒落なんですね。
ですから、テッチリなんて看板はですね「当たりまっせ」といぅ看板なん
ですね「知りまへんで」といぅ看板。まぁそぉ考えると気色悪いですが、昔
からこの「オツですと言ぅがフグには手を出さず」てね「フグは喰いたし命
は惜しし」なんて、いろんなこと言われておりますが。
まぁ今の感覚と少しね、昔の感覚とは違うとは思いますが、今でもやっぱ
り「絶対よぉ食べん」といぅ人は世間にちょいちょいおられますが。
●えぇ〜、こんにちわ、えぇ〜こんにちわ■おぉ〜、誰やと思たら大橋っさ
んやないかいな。長いこと顔見せなんだが、どないしてたんや？●えらいご
無沙汰をいたしまして。いぃえぇ、こないだね、田中はんのお供で温泉巡り
をさしていただきましてな■ほぉ〜、温泉巡り。そら良かったなぁ……、どっ
ちのほぉ行って来てん？
●もぉ、あっちこっち、あんた色々回らしていただいて、へぇ。一番初めに
まいりましたんがそぉ、あの北海道のね、ご存知でございますか登別温泉で
ございましてなへぇ。それから何です白浜のほぉへまいりましてへぇ、で草
津から道後へ行きましてなぁ、熱海を回って指宿へ■どぉいぅ順番や、そら。
何やケッタイな回り方やなぁ。
●いや、順番はうろ覚えでおますけども、そぉいぅとこ色々と回ってまいり
ました■良かったなぁ●こら何でございます、しょ〜もないもんでございま
すが、ただいま申しました北海道で、登別でわたしわざわざ買ぉてまいりま
したんで。いやもぉつまらんもんでございますが、わたしわざわざ買ぉてま
いりましたん……、どぉぞまぁおひとつ。
■えらいすまなんだなぁ、北海道でわざわざ……、ほぉ〜っ、赤福餅？ まぁ
もろとくけども、あんまり北海道で買ぉてきなや、これ。いやいやそぉいち
いち気ぃつかいなや●何をおっしゃいますやら旦さん。わたしらあんた、日
頃旦さんにお世話んなってることから比べましたら、こんなお土産の一つや
二つ、そぉでおますがな、うちの家のもんにも始終言ぅとります。
●「いつもこないして無事に暮らしていけるのはみな旦さんのお陰や」ちゅ
うて。晩でもこぉ「旦さんのほぉへ足向けて寝たりしたらいかん」いつも言ぅ
とります。せやから旦さんのお写真をね、いつでもこのお仏壇に飾りまして
ね、みなでお線香立てて、こぉ……■分かった分かった、まぁ適当にしぃな。
しかし何やで、そないいちいち……●何をおっしゃいますやら旦さん。
■せやけどえぇとこへ来たなぁ●何でおます？■いや、土産をもろたさかい
言ぅねやないけども、いまちょっとな奥でこんなことの用意がさしてあんね
ん。差し支えなかったら、あんたちょっと付き合えへんかい●何でございま
す、わたくしが一杯いただけます。さいでおますか、差し支えやてなもんあ
んた、一昨年(おととし)あたりからずっとおまへんので。きょう、ゆっくり
させていただこ思てまいりましたんで。
■そぉか、そらちょ〜ど良かった。これ、奥のほぉどんな具合や？ えぇ？
あぁ……、もぉ用意がえぇらしぃさかいな、遠慮せんとこっち上がんなはれ
●さいでやすか、それでは失礼(ひつれぇ)して通らしていただきます。さよ
か、なるほどいつもながらお座敷がきちっと片付いてますわ、もぉこちら寄
せていただいただけで、気分がす〜ッといたしますなぁ、いえホンマに。う
ちらの家なんか、毎日ゴミ箱蹴倒したよぉになってますんで、気持ちが違い
ます。
●これわこれわ奥様でございますか、長らくご無沙汰いたしまして、きょう
は一段とこの御髪(おぐし)の具合がよろしゅ〜ございますなぁ。え、何でご
ざいます？ わたくしのお土産？ アホらしぃ、大層にお土産てなもんでは
ございませんのん。ホン塵(ちり)結んだよぉなもんでございましてな、お礼
を言ぅていただきますとかえって損がいくてなもんで、しかしまぁ相変わら
ずお美しぃ、イヨッ！
■やかましぃなぁ、ベンチャラはえぇさかいそこ座わんなはれ、相変わらず
賑やかな人やで。さぁ、早速やがひとついこか●さいでやすか、これわこれ
わ旦さんのお酌で、うわぁ〜ッこらまぁ恐れ入ります。それでは頂戴をいた
しま……、いただきま（クゥクゥクゥ……）ハァ〜ッこら結構な、こら旦さ
ん何ちゅう銘柄で？「清酒犬乃盛」なるほど、名前からして上品な感じがし
とります。
●コノワタが出とります、わたしまたこれが大の好物。もぉこれがあったら
お酒が何ぼでもすすむ……、こらうまい、結構な塩加減で■けどまぁ、そん
なもんばっかりで呑んでられへんが、あんた鍋はどないやな？●何でござい
ます？■いやいや、あんた鍋は食べるかっちゅうねん？●鍋ねぇ……、わた
しあんまり歯は丈夫なほぉやおまへん。
■あんた鍋かじる気ぃか、冗談おきなはれ。いやいや、きょうはこぉいぅ用
意がしてあんねん●最前から気になってました。ほぉ〜っ、これから何です、
お鍋に限りまんなぁ■さぁ体が温もるさかい……、どないや、おぉ〜ッこら
えぇ具合になってきたなぁ。さッ遠慮せんと手ぇ出しとぉくれ、鍋遠慮した
ら旨ないさかいな、ドンドン箸付けとぉくれや。
●さいでやすかへぇ、こちらでお鍋までよばれられるやなんて、えぇとこ来
ましたなぁ。あぁなるほど、こら旨そぉや……。こら旦さん、きょうは何の
お鍋でございます、これわ？■え？●何のお鍋？■まぁ何でもかめへんがな、
食べたら分かるがな●そらまぁ食べたら分かるてなもんでおまっしゃろけど
も、だいたいは何のお鍋で？
■ん〜ん、まぁまぁとりあえずは食べぇな●とりあえず、何のお鍋？■何を
言ぅてんねん、やったらえぇがな●何が入ってんのんかいなぁ？ っちゅう
ことをね、ちょっと■「何が入ってんのんかいなぁ」て、おまはん見たら分
かるやろがな……。白菜も入ってりゃ、椎茸も入ってるし、豆腐……
●そら分かってまんねん。お野菜やらお豆腐のほぉは見て分かっとりまんね
んけども、これこれ、豆腐と椎茸の間からちょっと顔出してるやつね、わた
いのほぉじ〜ッと見てニコ〜ッと微笑んでおられますが、こら旦さんいった
い何でおます？■あぁそれかいな、そらあのぉ、テツやがな。
●これ旦さんテツですか、テツてあの、軍艦作る？■何をわけの分からんこ
とを、違うがな、これは「んぐ」や●え？■違うがな、あれや●何でんねん？
■「あぐ」やがな●え？■「うぐ」やがな●旦さん、どっか破れてはりまん
のか？ 何かもれてまっせ。もっとあんじょ〜言ぅとくなはれ、何ですか？
●え？ フグ……、フグ？ フグてあの河豚。さよかぁ、それやったらそぉ
と始めにそない言ぅていただいたらよろしぃのに、あんた「んぐ」てなこと
言ぃはるさかい……、さよかフグですか、なるほど……。おッ、わたしちょっ
と家に思い出した用事が、一旦失礼さして……
■こ、こ、これ、どこ行くねんお前。差し支えない言ぅたやないか、遠慮せ
んとやったらどや●いやぁ、あのぉ〜、何でございます、フグと伺いますと
ちょっとこのご辞退をさしていただきたい■ほぉ〜、何でや？●まだちょっ
と時期が早いよぉに思いま■そんなことあるかいなフグはこれから段々旨な
んねや、もぉ時期やがな。
●いや、その時期やおまへんのんで。わたしのせがれがね、今度学校卒業い
たしまして、旦さんのお計らいで就職が決まっとります。もぉ家内じゅう喜
んでましてな、まぁこれが三、四年も経ちますと生活のほぉもボチボチ安定
してくるやろと思われますんで「割れ鍋にも閉じブタ」てなこと言ぃますん
で、これに適当な嫁を持たして、でまぁ孫の顔の二、三人も見て「あぁ、生
きてて良かったなぁ〜」と、こない思てから頂戴さしていただきます。
■そんな時分まで煮(た)いてられへんがな……、いまえぇ具合になってんね
ん、いま食べなどぉすんねん●さいですか、昔から申します「河豚鍋や、鯛
のあるのに無分別」てなこと言ぃますんでな、ちょっとこれだけは……■あ
んた恐いのんか？ 恐いのん？ 情けない人やなぁ、今日日(きょ〜び)誰も
そんなこと言ぅてへんで。大丈夫、わしが請け合うさかいにちょっと食べて
みなはれ。
●わたしもぉ、このお酒とコノワタさえございましたら何にも要りませんの
で■難儀な人やなぁ、あんたも●そんな恐い顔しはらいでも、わたしにお構
いなくどぉぞ旦さん食べとくれやす■わし？ ん〜ん、そらわしかて食べた
いけど……、気色悪いがな●え？ 何でございます？
■ぶっちゃけた話するけどもな、だいたいよそからのもらいもんやねんこれ。
わしもフグっちゅうやつが初めてでなぁ、どぉも気色悪いさかい「ここへ誰
ぞが来たらやなぁ、それいっぺん食べさしといて、大丈夫やったら家族でよ
ばれよか」ちゅうなこと言ぅてたとこやったんや……
■さぁ、遠慮せんとやっとぉくれ●よぉそんなこと言ぃなはんなぁ。ほな、
わたし実験台でっしゃないか■大層に言ぃなはんな。けど、あんたもやった
ことないのんフグ、いっぺんもいままで？ 難儀やなぁ、あんたあっちこっ
ち行てるさかいこんなもんぐらい食べてると思うがな。なぁ、せっかくえぇ
具合になってるもん、手ぇ付けられへんちゅな情けないなぁ……
■何とか……、どないしたんや？ これ、台所のほぉがうるさいなぁ。どな
いしたんや？▲旦さん■何や？▲いつものオコモがまいりまして「お余りを、
お余りを」と、こない言ぃますのん「きょうはもぉ何もない」言ぅたんです
けど、なかなか帰らんもんですからつい大きな声出して■えぇ？ いつもの
オコモが「お余りを」て……、お余りてなもんお前……、あるやないか、あ
るがなおい。
■ちょ、ちょっと待たしとき……。どないや大橋っさん。お誂え向きにオコ
モが来てるっちゅうさかいに、これいっぺん食べさして、で大丈夫と見極め
た上で我々が食べるといぅのはどぉや？●なるほど……。さすが旦さん、腹
黒い■腹黒い？●ご名案でございま。
■ちょっと待たしとき、いま取ってやるさかいな……。なるべくこの毒の多
そぉな……、こんなもんでえぇか？●むふ、むふ、むふ……■おかしな声出
しないな……、これなぁ、ちょっとそっち持って行ってあけてやり「熱いう
ちにお上がり」ちゅうてな……。あんたちょっと表行て様子を見といなはれ。
●はぁはぁ、そぉでんなぁ、ほなわてちょっと見てきま■しっかりと見とい
なはれや●へえッ……
●旦さん■おぉ、どんな具合やった？●上首尾、上首尾。あんまり後ろから
ベチャ〜ッと付けて行ったんでは怪しまれますんで、あの横町お堂がおまっ
しゃろ、あの前座り込みよったんで、それ見届けてからまた知らぁん顔して
町内グル〜ッと回ってまいりまして、元のとこへ帰って来ると、あのフグを
食べて温もったんでっしゃろなぁ、お堂の前でコックリ〜コックリ居眠りを
しとりまんねん■居眠りなぁ……、そのまま息引き取ってはるてな。
●もぉそら大丈夫だ。ムニャムニャッとこぉ寝言言ぅとりましたんで■寝言？
●えぇ「ん〜ん、しびれる〜ぅ」嘘うそ、冗談でんがな。気持ちのよさそぉ
な顔して寝とりましたんで■あっそぉ、ほな、これ大丈夫？●大丈夫でおま
す■ほな食べよか？●へぇ食べまひょ■食べなはれ●へっ、どぉぞ……
■「どぉぞ」やあらへんがな、あんたが見てきたんやさかい、あんた先食べ
なはれ●わ、わたしが旦さん差し置いて先にいただくやなんて、それは人の
道に外れる■おかしなとこで義理立てせぇでもえぇねやがな。分かったわかっ
た、もぉ大丈夫やといぅことが分かってんさかいな、あとは口入れるきっか
けだけじゃ。
■ほな、あんたとわたしとひとつずつ身をつまも、ここで。で、わしが「一
二の三」と、掛け声を掛けるさかいに、その拍子に二人がこぉパッと食べよ
か●何や、パン食い競争みたいでんなぁ■そないでもせなしゃ〜ないがな、
ひとつ取んなはれ、そこにポン酢があるやろ、それ付けてな、えぇか……
■それは白菜やそれわ……、返しなはれ、返しなはれ。どんな根性してんね
ん。えぇかいくで、一二の三やで、卑怯なことは考えなはんなや……、一、
二の、三……。早よ食べんかいなあんた●旦さんお召し上がりを■あんなこ
とばっかり言ぅてるなぁ……、冷めてしもたがな、もっぺん温め直す。
■今度こそホンマに食べんねんで、いくで。いち……、にの……、さん……
？…… ？！…… ！…… ん……、んんん……、んんんんんんん……、ん
まい！●旨いんでっかいな、おかしな声出しなはんなビックリしまんがな。
いやしかし、こらなかなか結構ですなぁ。
●はふ、ほ、ほ、ふっ、ふ……、ん、ん、ん、これはいけます。へぇ〜、こ
ら旨いもんです。最前はビクビクしとりましたが、こら結構です。はふ、ほ、
ほ、ふっ……、こらまた骨付きでおますなぁ……、なるほどこない美味しぃ
もんやとは。はふ、ほ、ほ、ふっ、ふ……。あ、あ〜っ、旦さん、そらわた
しの分です。
●歯ざわりといぃ、こら結構。お豆腐もよぉでけとります、豆腐もいただき
ます。はふ、ほ、ほ、ふっ、ふ……、熱い！ うまい！ 熱い、おいしぃ！
■喧しぃなぁ、食べるか喋るかどっちかにしなはれ。
ワァワァ言ぃながら、もぉスックリ食べてしまいまして、あとは雑炊にし
たりしてお腹は満腹でございます。
■わぁ〜っ、旨かったなぁ●美味しおましたなぁ旦さん、わたしこんな美味
しぃもんやとは知らんもんでっさかい、こないだも小林っ先生が「おい、フ
グ食べに行こか？」誘そてくれはったんですけどな、恐いもんでっさかい断っ
たんで。もったいない、今度誘われたら飛んで行こ思てまんねん■またわし
が連れったるがな●是非よろしゅお願いします■何や？ これッ、また台所
がうるさいなぁ。どないしたんや？
▲旦さん、最前のオコモがまたまいりましてん。今度は「いっぺん旦さんに
お目にかかりたい」と、こんなこと申しますの■味しめてまた来とぉんねや。
もぉ無い、そない言ぅてあんじょ〜断ってしまいなはれ！
★あのぉ〜、旦さん方……■おッ、何じゃこいつ、厚かましぃやっちゃ、庭
から回って来てるがな……。何や？★もぉみなお召し上がりになりましたか
いなぁ？■「お召し上がりになりましたかいなぁ？」て、この通りスックリ
食べてしもたがな★あぁ、さよか……
【さげ】
★ほなわたいも、安心してこれからゆっくり頂戴をいたします。
【プロパティ】
ただ今はまた粋なところぉでございました＝河本寿栄「女道楽」
春団治師匠がね、ご準備が出来上がりますあいだ＝トリ「高尾」
登別温泉＝北海道南西部、登別市にある温泉。泉質は、単純泉・ミョウバ
ン泉・硫化水素泉など。支笏洞爺国立公園の一中心。
白浜＝和歌山県紀伊半島南西部、太平洋に面する町。気候と風景に恵まれ
た温泉郷。
草津＝群馬県吾妻郡、白根山東斜面にある町。古くから知られた温泉町で、
泉質はアルミニウム硫酸塩泉。
道後＝愛媛県松山市の市街の北東、道後山の麓にある温泉。古代から知ら
れた温泉で「伊予国風土記」逸文などに記載が見られる。単純泉。
熱海＝静岡県東部、伊豆半島北東岸にある市。相模湾に臨む。全国有数の
温泉地・観光地。泉質は塩類泉。
指宿＝鹿児島県薩摩半島南東部の市。指宿温泉の砂蒸し風呂は有名。市域
が霧島屋久国立公園にはいる。
ケッタイ＝妙な・変な・へんてこな・おかしな・奇態な・嫌な・不思議な
など、実にいろいろな意味を含んだケッタイな言葉。エゲツナイと並
んで上方言葉の両横綱。怪体とも奇態とも希代とも卦体とも当てる。
赤福餅＝三重県伊勢市の名物のあんころ餅。赤餡を用い上部に五十鈴川の
せせらぎを現わす三本の指で押さえた形がある。1707(宝永４)年に伊
勢神宮内宮の五十鈴川のほとりで創業。赤福の由来は「赤心慶福：偽
りのないこころは幸せ喜びである」より。大阪では主要駅売店に限ら
ず、ちょっとしたスーパーの和菓子コーナーにも置いてある。
塵(ちり)結ぶ＝塵はほんの小さい物であるが、その小さい塵を結ぶほどの
微小の意にいう。
べんちゃら＝おべっか。追従(ついしょう)。世辞。おもねりへつらうこと。
口先ばかりのお世辞を言って相手にへつらうこと。弁巧をもってチャ
ラチャラ言う意から出た言葉か。東京ではおもに上役におべっかを使
ういやなやつの意に用いているが、大阪ではその意味がずっと軽くなっ
て、単なる世辞の意に使う。
コノワタ＝海鼠腸：ナマコの腸(はらわた)の塩辛(塩漬け発酵食品)。
置く＝やめる。よす。中止する。
テツ＝河豚＝鉄砲のてつ。弾(偶：たま)に当たるからフグ。
あんじょう＝うまい具合に。味よく→アジヨォ→アンジョ〜。
お薦(こも)さん＝お乞食さん。薦はムシロのこと、ムシロをまとって生活
をする人の意。
すっくり＝すっかりの行訛。すっきり。そっくり。さっぱり。きれいに。
残らず。全部。すべて。
味を占める＝「占め」は物事が上手くいった時などにいう「しめしめ」と
同義。
庭＝通り庭：大阪で庭は土間のこと、木の植わっているのは前栽という。
音源：桂吉朝 1995/11/11 平成紅梅亭(YTV)
【作成メモ】
●参 照 演 者：main＝桂吉朝 sub＝笑福亭松喬、桂春駒
●main高座記録日：1995/11/11 ●番 組 名：平成紅梅亭(YTV)
●ファイル公開日：1997/08/10 ●江戸落語相当：＊
●更 新 日：2017/04/23 ●リクエスト数：
●注 意 事 項：内容を削除、追加、改訂している部分があります。
記録日のmain演者によるさげを採用しました。
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