【主な登場人物】
喧嘩屋 その客ほか
【事の成り行き】
喧嘩の“喧”の字義は「かまびすしい。しきりにざわつく。わいわいとや
かましい」“嘩”は「かまびすしい。わあわあと騒ぐ。やかましい」争い事
の表面的な騒がしさを示した言葉です。
喧しく、騒々しいだけの喧嘩は根が浅く、一瞬ワァ〜ッとやり合えばスト
レスが発散して収束するのも早いのですが、喧しくない静かな喧嘩となると
問題解決には時間がかかり、第三者の介入が必要になるのです。
そこで、喧嘩当人の代理人として喧嘩を買い相手方に売りつける。いわば
喧嘩収拾のプロ、喧嘩売買屋、弁護士という商売がこれに当たります。喧嘩
もここまで大きくなると「争議」と名を変え、専門的な喧嘩知識・法律に基
づき、裁判官という審判員を前に淡々と試合が繰り広げられます。
専門家に頼んで仕事をしていただくわけですから、金銭的な費用が発生す
るわけですし、その額もわずかでは済まないのは当然のことでしょう。時間
をかけ、金をかけ、勝てばまだしも負ければ目もあてられない。
やはり喧嘩をするなら「喧しく騒々しい」喧嘩をしたいもの、と思う今日
この頃(2012/06/17)。
＊ ＊ ＊ ＊ ＊
え〜、たくさんのご来場ありがとぉございます。出てまいりましたのが、
わたくし桂文三と申しまして、ちょっと怪しぃもんでございます。どぉぞお
願いをいたします。文三でございます、どぉぞよろしくお願いをいたします。
ありがとぉございます。
我々の商売、噺家といぃますのは本当におかしなもんやと思います。商売
いろいろございますが、ものを売りに歩く、ものを試食さしてそれを買って
もらうなんてこともありますれば、ものを売り歩くなんていぅのもあります
んですけども。
わたしら何が嬉しぃかと申しますと、今いただきましたお客さまの拍手、
これが一番でございまして、うちの師匠、亡くなりました桂文枝も言ぅてお
りましたが、お客さんの拍手の度合いで期待度がよぉ分かるんやと。
ただこれ、わたしらがよく経験することなんですが、皆さま方の「待って
ました」別にわたしを待ってくれてたわけやないと思うんですが「待ってま
した」といぅお気持ちと、こちらの「頑張らしていただきます」この気持ち
が見事に合致しないことには笑いも生まれなければ、心地良い空気も出ない
といぅことでございます。
そんな空気でないところでやるわたしらの気持ちにも、たまにはなってい
ただきたいなと思うところありまして。と申しますのが「もぉえぇねん、そ
んなもん要らんねん」と無理矢理売りつけて門前払いを食ぅ商売もあると思
いますが。
そんな状況あるときありましてですね、年度末・年度変わりと申しますの
は、言ぃ方が悪いかも分かりませんが、どちらの団体・地方事業でもですね、
ちょっとした予算がちょっとだけ余ったいぅ時期があるんやそぉです。
で、何かせないかん、使こてしまわないかんねやけども、かといぅてそな
いに大物が呼べるほどの額ではない「どぉしょ〜か？」てなるんですて。そ
したらそこで、学校なんか行きますと、小学校なんか本で落語なんか取り扱っ
たりいたしますので「そや、落語でも生徒に見せよか」てなるそぉなんです。
ところがこれまた、額を見ますとそないに大物は呼べない「どれぐらいの
人呼ぼかなぁ？ そぉやなぁ、あんまり若い人らもあかんし、かと言ぅて大
物は無理やし……、どれぐらい、キャリア二十年手前ぐらいかなぁ、この人
らやったら、弁当で来てくれるやろなぁ」
といぅので、掛かんのが我々クラスなんですよね。そぉなりますと、わた
しらは意気揚々と「頑張らないかん」と思います。小学校行きましても空気
といぅのがね、これね言葉では表現できない、説明できないですが。
今日のよぉな、もちろんこんな立派な会場ではございませんし、校具室み
たいなところに呼ばれましてですね、ちょっとパーテーションが立ててあり
まして、入ったら二度と出れない状況なんですね。トイレにも行けない、ガ
マンしないといけない、そして、空気がスカスカなんです。
あの、見たくてお越しいただいてる方々ではないんですね、親子連れなん
ですけど「よかったら来てください」自由参加、我々としたらこんな寂しぃ
ことはない、自由参加、こんな会はないです。
「暖(あった)か落語会」なんて貼ってくれてますんですけど、わたしから
見れば「あったんかいな、落語会」て見えるんです。それぐらいの会なんで
すね。
ほんで、入って来られます。そしたらもぉ声が丸聞こえ、まさか横手にわ
たしらが控えてるとはご両親、まして子どもなんか思ってもないですから、
人間、いてないとこでは好きなことおっしゃいますんでね。
入って来ますといぅと、子ども、落語なんや分かれへんから「母さん、落
語てなに？」言ぅたらお母さんが「知らんがな」言ぅんですよね「そんな、
知らんのんかいなと、ちょっとぐらい勉強してきてくれよ」言えませんから
ね、ムズムズム・ズムズしてるわけですよ。
で、出ます、拍手まばらです、今日のよぉなまとまりは一切ございません。
演らしてもらいます。説明して演るんですが「こんにちわ」「おぉお前か、
さぁこっち上がっといで」「どぉも、ご無沙汰してまして」「元気にしてた
か？」「相変わらず元気にしてましてん、お宅は？」言ぅたら、前で子ども
が「キショ」言われましたですね。
そら気持ち悪いわねぇ、一人で全部処理してんねやから。しかしまぁ、子
どもて辛抱できないですからね、近頃のお子さんは特にね、落語といぅのは
お聴きいただいておりますよぉに、これとこれとこれがあって、最後にこれ
がバッとバラして笑いになる。これが辛抱いただけないから、子どもも段々
だんだんダレてくるんですよね。
ほなもぉ「あぁ〜あ」とか「ちちちちッ」音を立ててくるんですよ、気に
なるでしょ、でも要らんこと言ぅたらいかんと思て機嫌良ぉ演ってましたら
ね、ほなお母さんが小っちゃい声で「辛抱しッ」サウナ入ってんねやないね
んから。
「辛抱しッ」ほなお父さんが横手で「もぉすぐ終わる」ズコッ。そんな中
で演らされるのがまことに辛いんですね。もぉちょっとキャリアを積めば、
そんな所に行かなくてもよくなるんではないかなと思うんですが。まぁ、落
語なんていぃますと、我々身軽なもんですから、あっちこっちに着物一枚で
出かけるわけなんですけども。
今日のお噺も、ちょっと変わった商売でございましてね、どんな商売かご
覧いただけば分かると思いますが、まぁ振り売りの商人(あきんど)さん、こぉ
担ぎましてね、売り声を上げるとこから聴ぃていただきますが。
●え〜ッ、喧嘩要りまへんかぁ〜ッ。喧嘩、どぉでおます？ 喧嘩ケンカ、
喧嘩は要りまへんかいなぁ〜ッ？
■何やあいつ、ケッタイなこと言ぅとるなぁおい、ちょっと呼んだろ……、
おいッ、お前やお前や（パンパンパン）こっちおいで●あッ大将、毎度どぉ
も、ひとついきまひょか■お前、何売ってるねん？
●聴ぃてまへんでしたんかいな、喧嘩でんがな喧嘩■ケンカ？ ケンカて、
どんな食いもんや？●食べもんとちゃいまっせ■ほな、飲むもんか？●違い
まんがな、喧嘩でんがな■何やケンカて？
●ご存じおまへんか？ 諍(いさか)い事でっしゃないかいな。夫婦(めおと)
喧嘩に痴話喧嘩、腕力沙汰。どんな喧嘩でも安すぅに勉強さしてもらいます
んで、どぉです生きのえぇとこ一人前？■「どぉです」言ぅて、喧嘩みたい
なもんどないして売るねん？
●そんなことも知らんと、わて、呼び止めたん？ チェッ、なんじゃいッ、
どぉせ冷やかしやろ。銭が無いんやったらな、そっち引っ込んどれ、この貧
乏たれッ！■お、お前、わしに喧嘩売る気か？●毎度、おぉきにぃ〜。ヘッ
ヘッヘッ、どぉです、売れましたやろ？
■え？ 今ので喧嘩売ったことになんのん？ 買ぉたことになんのん？ ほ
なわい、銭払わないかんのん？●いえいえいえ、今のは見本でっさかいかま
しまへん。こぉいぅ具合にね、どんな些細なことからでも見事に喧嘩の花を
咲かしてご覧に入れますよって、へッ、どぉぞご安心を。
■安心できるかいな、物騒なやっちゃなぁしかし。なにかい、ちょっと尋ん
ねるけどお前、そんな商売儲かんのん？●大将、ところがね、お客さんちゅ
うのは結構いたはりまんねん。といぃますのがな、ちょっと大将思い出して
もらいたいんでっけども、大将、わたいら子どもの時分いぅたらよぉドツキ
合いの喧嘩したん覚えてまへんか？
■あぁ、そない言われたらドツキ合いの喧嘩よぉしたなぁ……、思い出した、
ここに傷あるやろ、これな、石でボ〜ンとどつかれたときの傷やしな、この
ハゲは棒でどつかれたときの傷やし、向こぉズネの傷は土手から突き落とさ
れたときの傷やねん。
●大将、弱かったんでんなぁ？■ほっとけ、アホ。ほっときぃな●まぁまぁ
よろしぃがな、こぉいぅ具合に、わたいらの子どもの頃にはもぉドツキ合い
の喧嘩が当たり前。少々のケガやったら親同士黙ってましたがな。
●ところがどぉです、今はちょっと喧嘩したいぅたら親が学校に怒鳴り込む。
ケガでもさしてみなはれ、警察沙汰でっせ。そんな親に育てられた子どもが
ドンドン・ドンドン大きなってきてまんにゃがな、ね、だいちあんた、近頃、
街中でもドツキ合いの喧嘩してんの見たことおまっか？
●おまへんやろ、ね、喧嘩いぅたらじきに刃物三昧ですわ、いきなり殺して
どないしまんねん。そぉいぅ、無粋で殺伐とした喧嘩増えたんも、こぉいぅ
古き良き「古典喧嘩」喧嘩の仕方を知らん人間が増えたさかいに。わてがこぉ
して「古典喧嘩」を売りに歩いてまんねん。
■なにかいな、喧嘩に古典とか新作とかあんのん？●そらおますがな、あの
ね、古典喧嘩にはどぉいぅかなぁ、勝っても負けてもこぉ情といぅか、深み
といぅか、味がおますわなぁ。喧嘩は古典に限ります。新作はどぉも底が浅
い■ホンマかいな、あんた。
●それにね、近頃の人はもぉ喧嘩の仕方を知らんもんだっさかいに、むかつ
いたことがあっても、とりあえずは一ぺん腹の中に溜めてしまいまんねん。
あきまへん、あきまへん、生ゴミとむかつきだけは溜めてたらあきまへん、
こんなん小出しにせなあきまへんねん。
●辛抱してるさかいに、破裂したときにえらいことになりまんねん。かといぅ
て、一人で喧嘩はできしまへんわなぁ■そらそやわなぁ、一人で喧嘩しとっ
たら、ただの危ないオッサンやからなぁ●そぉでっしゃろ。そこでわたしが
実際に喧嘩の相手になってさしあげて、むかつきを発散する相手になる。こ
れがわたしの喧嘩屋ちゅう商売でございます。
●どぉです、生きのえぇとこ一人前？■はぁ〜ッ、そぉいぅ商売か、こらオ
モロイなぁ。いやいや、よぉ分かったんやけどもな、わしまだそないにむか
つき溜まってへんさかい、今度でえぇわ、おおきにすまんなぁ●さよか、ほ
なまたよろしゅ頼んまっさ。おおきに……
●ホンマの冷やかしかいな……、喧嘩どないでおます、喧嘩ケンカ。喧嘩は
要りまへんか、喧嘩ケンカ？
▲あの、お喧嘩屋はん、お喧嘩屋は〜ん●えらいまたケッタイな「お」付け
る人いてんなぁ、えらい上品な人や、へッ、何でおます？▲あのぉ〜、喧嘩
を売ってはるんでございますか？●へ、そぉでございます▲小売はしていた
だけるんでしょ〜か？●わたいら、たいがい小売でんねんけどね。喧嘩の卸
してしたことおまへんねんけど。なんでおます？
▲あのぉ〜、お幾らぐらいするんでございます？●そぉでんなぁ、喧嘩の大
きさとか種類によりまんねんけども、どんなお好みなんか、ちょっとお伺い
したい▲そぉでございましたら、立ち話もなんですんで、どぉぞこちらへお
上がりくださいませ●すんまへん、どぉもどぉも……
●いやいや、お茶は結構でございます。え〜、どんな具合で？▲はい、まず
はわたしの恥から申さんなりませんのやが、わたし今年、二十九になったん
でございます●ほぉ〜、二十九で「恥」言ぅとったら、三十の人生きてられ
へんがな……、で？
▲へぇ、初めて「お前が好きや」と言ぅ人が現れまして、将来は夫婦になろぉ
といぅ話まで出たんでございます●そら、めでとおました。それから？▲で、
その男が申しますのには「お前と一緒になるには今してる商売を広げんとい
かん、それには資金が必要や」と、こぉ申します。
▲で、わたしが今まで貯めておりましたお金をその男に渡したところが、そ
の男、ほかの女と手に手を取って逃げてしもたんでございます●そら、悪い
男やなぁ。分かりました、つまりその男の代わりになって喧嘩の相手をさし
てもろたらえぇと、こぉいぅことでんねやな？
▲さよぉでございます。今ご覧いただきましたよぉに、わたし、こんな気の
弱い女でございます。今、その男とパッタリ道で会ぉたところで言ぃたいこ
との万分の一も言えしまへん。
▲言ぃたいことがあるんですが、それがもぉお腹に溜まってるばっかりやと
思うと、ドンドン・ドンドン体が悪くなって病気になってしまうんやないか、
あまりに辛いのんで、喧嘩の相手になっていただきたいん。こぉ思て、お呼
び止めしたんでございます。
●そぉですか、いやいや分かりました、つまりその男の代わりになって、喧
嘩の相手になったらえぇ、分かりました。ほならねぇ、夫婦喧嘩にちょっと
色付けてもろたらよろしぃわ▲さよぉでございますか、ありがとぉございま
す、お幾らで？ まぁ、そんなんでよろしぃんですか？ いえいえ、お釣り
は結構でございます。
●そぉでっか、ありがとぉさんでございます。へッ、で、どぉいぅ具合に？
▲「どぉいぅ具合に」言われましても、わたくし女でございますんで、そん
な喧嘩といぅよぉな荒げないことは……
●そぉですわなぁ、見たところお上品そぉな。そしたらね、こぉいぅ痴話喧
嘩といぅのはよろしぃか、たとえばでっせ、激しぃ中にもこぉ色気といぅか
艶といぅもんが欲しおまんねやなぁ▲はぁ〜？ 「色気」とか「艶」とか言
われましても……
●へッ、まぁまぁたとえばでっせ、相手のことが今でも好きなんでっせ、好
きやけど腹が立つ、これ難しぃとこですわ。そこでね、たとえばでっせ、こぉ
目に涙カ〜ッと溜めてでっせ、こぉいぅ感じで「ちょっとあんたッ、わての
顔見てみはれッ」こんな具合でね。
▲はぁ〜、はい、でわ、やってみたいと思います「ちょっとあんたッ！ な
んやねんなッ！」●えぇ感じです、それ、それです▲いやぁ〜、恥ずかしぃ
●いや、恥ずかしがらんと、あのね、もぉちょっとこぉ、気ぃ入れてもらえ
まへんかなぁ？
▲気を入れるんでございますか？●そぉです。よぉ考えてみなはれや、あん
たが今まで一生懸命貯めた金持って、しかもほかの女と逃げて、今ごろその
金で旨いもん食てあんたの悪口言ぅてまっせ▲ほ、ホンマでございますか？
●いや、ホンマかどぉか知りまへんけどもね。そぉ思たら腹が立ってきまっ
しゃろが、その顔でもぉ一ぺん今のセリフ言ぅてみなはれ▲段々、腹立って
きました……、ちょっとッ！ あんた、なんやねんな、そんな女に騙されて！
●えぇ具合(ぐわい)、それそれ▲恥ずかしぃ〜ッ●恥ずかしがらんでもよろ
しぃ、わてもちょっと入らなあきまへん、ちょっと待っとくなはれ（ハッ、
ン〜ッ）……
●そない言ぅけど、わしもいろいろ事情があってな▲何を、事情やとアホン
ダラッ！ 事情、事情て、ドジョウみたいな顔さらしやがってお前わ。なに
考えとんじゃアホッ！
●いやいや、あんたえらい変わってしもて▲何がじゃ？ 金返したれ金、な
めとったら承知せんぞ、このガキャ（ボコッ、ボコッ、ボコッ）●いた、痛
たいた痛たッ、ちょっとあんた、人変わってまっせ、痛いいたい、ちょっと
落ち着きなはれ。
▲はッ、あぁ〜、喧嘩屋さんありがとぉ●あんた、えらい変わりよぉでんなぁ
▲また来てね●もぉよろしぃわ、痛たぁ〜ッ、こんな商売たまらんなぁ……
●えぇ〜、喧嘩要りまへんか、喧嘩ケンカ、喧嘩どぉでおます？
◆（パンパンッ）よぉ（パンパンッ）大将（パンパンッ）ちょっとちょっと
●今度また愛想のえぇやっちゃなぁ……、何でおます？◆どぉもどぉも、あ
んた喧嘩の仕方教えてくれはりまんのん？●へぇ、そぉですけども。
◆ヒャッはッはッ、すんまへん、わてに喧嘩教えてもらえまっか？●いや、
よろしぃけど、あんたみたいな機嫌のえぇ人、喧嘩せんでえぇんとちゃいま
す？◆ウワッ、辛い、辛いなぁ、ヒャッはッはッ、あんたも思う？ わても
よぉ言われまんねん「あんたみたいな機嫌のえぇ人、喧嘩することないんちゃ
いまっか」言われまっけどもね、ヒャッはッはッ、それが辛いんですわ。
◆せやさかいね、こんなニコニコしてまっさかい、周りの人「えぇ人や、えぇ
人や」言ぅてくれはりまんねん●ほなそれでよろしぃがな◆ところがあんた、
あんたには分からんやろけど、えぇ人でも辛いんでっせ。たまには無茶のひ
とつも言ぅて、ワァ〜ッと暴れたいんでっけども、なんしこんな顔してまっ
しゃろ、ハッハッハッ、ねぇ？
●「ねぇ」言われましてもねぇ、ほななんでっかいな、あんた「えぇ人や言
われんのが辛いさかいに、喧嘩のひとつでもしてワァ〜ッと発散したい」と、
こぉいぅことでんな？◆ヒャッはッはッ、そぉでんねん。ひとつ、よろしゅ
お願いしますわ。
●分かりましたけど、なんや調子狂うなぁ……、ほなあんた、何ぞむかつく
ことおまへんのかいな？◆えぇ〜ッ？●いやいや「むかつくことおまへんの
か？」言ぅてまんねん◆うわッ、ぎょ〜さんあるで●ほな、ちょっと言ぅて
みなはれ。
◆言ぅ言ぅ、ぎょ〜さん……、うわッ、どれから言おかなぁ……、言ぅてよ
ろしぃのん、言わしてもらいますわ、ハッハッハッ、ほなあれからいこ……、
こらッ、ほんま、お前なめとったら承知せんぞ、こらァ。人の顔見たらいっ
つも指図しやがってお前、俺はむかついてんねんぞッ！ ハッハッハッハッ。
●気持ち悪いわあんた、もぉ。気持ち悪い。そんな恐いセリフ笑顔で言ぅの
んやめなはれ◆ハッハッハッ、恐いことおまへんか？●いや、恐いことない
ことないんでっせ。かえって不気味さは増してまんねんけどもね、あんた自
身が発散しまへんやろ？
●だいち、顔がいかん顔が、緩んでまんねん、開いてまんねん。もっとギュッ
と閉めて、グッと、グッと◆え？●閉めて◆こぉ……？●開いてる、開いて
る。もっと閉めて、閉めて◆これでよろしぃでっか……？●ほな、それでもっ
ぺん言ぅてみなはれ。
◆分かりました……、お前、なめとったら、承知せんぞ、アホンダラ、ハッ
ハッハッ。おらぁ、むかついてねんぞ、ハッハッハッ●あかんわ、もぉ、あ
かんわあんた◆ハッハッハッ、あきまへんか？
●「あきまへんか」て、また笑ろてるわ。あんたね、もっと真剣にやんなは
れホンマに。客や思て、下から出とったらえぇ気になりやがって……、まだ
笑ろてるわ。愛想笑いやめ言ぅとんねん。ちょっとお前、真剣になったらど
やねん、ホンマにッ！
◆えらい怒ってまんなぁあんた、ヘッヘッヘッヘッ、気持ちよろしおました
やろ？●あぁ……、ホンマや、気持ちよかったわ◆喧嘩代おくれ●なんでや
ねんッ！
★おぉ〜いッ、種、タネぇ◆なんや？◆お前、何しとんねん？◆すまんすま
ん、ちょっと喧嘩屋と話しとってな★喧嘩屋て何やねん、早いこと仕事戻れ
◆すまんすまん……、喧嘩屋はん、ほな戻るわ、あぁオモロかった。
●いや「オモロかった」て、あんた何しに来はってん？ 喧嘩買いに来たん
ちゃうのん？
【さげ】
◆いや、喧嘩買うどころか、油売りに来たんや。
【プロパティ】
ケッタイ＝妙な・変な・へんてこな・おかしな・奇態な・嫌な・不思議な
など、実にいろいろな意味を含んだケッタイな言葉。エゲツナイと並
んで上方言葉の両横綱。怪体とも奇態とも希代とも卦体とも当てる。
荒げない＝荒々しいこと。「〜ない」は強調の接尾語。
さらす＝するの罵語。やがる・くさる・けっかるなどの補助。さらしてけっ
かる。
原作：小佐田定雄氏
音源：桂文三 2012/05/25 上方落語の会(NHK)
【作成メモ】
●参 照 演 者：main＝桂文三 sub＝＊
●main高座記録日：2012/05/25 ●音 源 名：上方落語の会(NHK)
●ファイル公開日：2012/06/17 ●原 作：小佐田定雄氏
●更 新 日：2015/11/22 ●リクエスト数：
●注 意 事 項：内容を削除、追加、改訂している部分があります。
記録日のmain演者によるさげを採用しました。
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